新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
とりあえず今のうちにと、残りのあんず飴を食べてしまうことにした。

最後に残ったもなかの皮をもぐもぐ咀嚼しながら、私は先ほど電話を受けた彼の様子を思い返す。

スマホのディスプレイを目にした瞬間の皐月くんは、私が今まで見たことのない表情をしていた。

なんというか……あまりあからさまではないにしろ、少し顔が険しくなって、嫌悪感が透けて見えたというか。

着信は、実家からと言っていた。
もしかして皐月くんは、あまりご家族と仲良くないのだろうか。

お盆の少し前、お墓参りがてら彼のご実家に行くべきかどうか訊ねてみたときは「実家には適当に言っておくし、今は気にしなくていい」と言われた。

あれは単に、記憶を失くしている私を気遣って言ってくれたものだと思っていたんだけれど……もしかしたらそれだけじゃなく、彼自身も、帰省したくない理由があったのかもしれない。

かご巾着の持ち手の紐を握る手に、自然と力が込もる。

ぽっかりと抜けた自分の記憶の空白を、改めて歯がゆく思ってしまった。

今の私は、本当に、皐月くんに守られてばかりで……自分からは何ひとつ、返せていない。

こんなとき、どんな言葉をかけるのが正解なのか、彼の家の事情を知らない今の私にはわからない。

訊ねてみるのは簡単だ。だけど、それすらも皐月くんの負担になってしまいそうで……実際に口にしてみようとは思えなかった。

ああ、ダメだな。私は今、きっと、暗い顔をしてしまっている。

せっかくの、楽しいイベントなんだ。こんなふうに自己嫌悪ばかりしていないで、明るくしなきゃ。
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