【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
 空耳? 幻聴?

 目の前では変わらず森場くんがニコニコしている。
 私はうまくリアクションをとれないまま、現実だと確信しきれずに――。

「え、わ……おいっ!」

「ひゃ……!」

 びっくりしすぎて彼とは反対方向に勢いよく転がっていこうとした私を、彼の腕が捕まえる。視線のすぐ先は崖。既にベッドの縁ギリギリの場所にいた私は、それ以上転がると床に落下してしまうところだった。

「びっっっくりした……何してんの、危ないな」

 びっくりしたのはこっちです!! ……と抗議できない状況になっていた。落ちるギリギリのところを捕まえられたがゆえに、森場くんに後ろから抱きしめられる体勢になっていた。しかもベッドの中で。さっきまでゆるゆると分け合っていた体温を、今は背中にダイレクトに感じていて、頭が沸騰しそうだ。

「あ、ああ……」

「あ……なっちゃん超いい匂いすんね。めっちゃ癒される……寝そー……」

 欠伸まじりの声と、緩くお腹の前に回された腕に翻弄され、私は叫んでいた。

「だっ、ダメですよ!? ……あっ……手もそこから動かしちゃダメぇー!」

 私たちの他に人がいなかった技術開発室は、一気にパニックルームへ。

 寝ぼけている森場くんの手があらぬ場所に触れようとするのを必死でブロックして抗っていると、ちょうどそこに通話を終えた斧田さんが戻ってきて……。
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