好きになるには理由があります
「早速、インネンふっかけられましたよ。
支社長が不用意にしゃべるから」
陽太に釘を刺しておこうと思った深月は、結局、船に乗って帰っていた。
忍者のように工場内の木々の隙間を通って港まで行き、自転車ごと、コソコソと乗船したのだ。
「めちゃくちゃ耳がいいな、あの女」
と操舵室で陽太は呟く。
そういえば、陽太は小声で言っていたのに。
まあ、我々の様子がおかしかったので、聞き耳を立てていたのかもしれないが。
「そういえば」
と陽太はデッキにある深月の自転車を見ながら訊いてくる。
「何故、お前は自転車で通勤してるんだ」
「自転車があると、広い社内を回るのに便利というのもありますが。
毎日、自転車で通っているのは、昔、お父さんが居たころ、健康には気をつけろといつも言っていたからです」
「そうか。
亡くなられたお父さんが……」
と言う陽太に、
「いや、生きてます。
駅前のジムでインストラクターやってます」
と深月は言った。
「筋肉がどうとかで揉めて離婚に」
「……ちょっと言ってることが、よくわからないんだが」