好きになるには理由があります
 無理です……、今。

 だが、おばちゃんにとって、今、もっとも大事なことは、急いで洗うべき器を深月が持ってくることのようだった。

 うちの親もああいうとこあるよなーと思ったとき、なにかすごい音が聞こえてきた。

 ガガガガ……と戦車がやってくるような重低音が近づいてくる。

「清春ーっ」
と外から陽太の声がした。

「今からその蔵を重機で打ち壊すっ!」

 ひーっ。
 なに言ってんだっ、この人っ。

「俺がその蔵、中身ごと買い取った!
 ちょうど耐震が怪しいから、建て直したかったと万蔵さんも言っておられるっ」

「ちょ、ちょっと、あのっ。
 私も中に居るんですけどっ!」
と叫び返してみたが、

「清春のものになるくらいなら、そこで(はかな)く散ってくれっ」
といわれる。

 こんな人に神は舞い降りないっ! と深月は思っていた。

「次の蔵は白壁がええのう」
と言う呑気な万蔵の声も聞こえてくる。

「清ちゃん、離してっ。
 殺されるっ。

 あいつらにっ!」

 重機が近づいてくる音がする。
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