転生令嬢は小食王子のお食事係
「早くしないとお父様になんて言われるか……」
 ぎりっと親指の爪を噛む。
 お父様と呼んでいるけど、彼は本当の父親ではない。地位とお金だけはあるから従っているし、自分の将来のためにこんなことをしているが、本来はこんなメイドなんて下働きは願い下げだ。
 幸いサボってもバレないし、うまくやればおとがめもない。
 だからこそ、さっきの令嬢の側仕えの言葉は最悪だった。
 脅しのようにノーマンに言うとは言ったが、あのノーマンという男もなかなか食えない。誘惑しても無表情だし、厳しいかといえばそうでもなく。
 小言は言うものの、基本的に放置だ。
 王子の予定くらい教えてくれることを期待していたが、そもそもノーマンもこの王子宮にいることが少ない。
 どこで何をしているのかは不明だ。
「まったく、離れにこもってたらいいのに!」
 側仕えにかばわれるようにしてこちらを見ていた令嬢を思い出す。
 不思議なものを見るように小首を傾げた姿。エプロンをしている上に、あまり豪奢ではないドレスを纏っていたが、それでもいい生地で丁寧に仕立て上げられているだろうということはひと目でわかった。
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