転生令嬢は小食王子のお食事係
 それが私にとっては現実味がまったくなくて……。
 お茶会の作法で、毒が入ってないことを示すために招待した側がまずお茶やお菓子を口にするというものがある。平和ボケしていた私の認識では、あくまで形骸化したマナーの範疇であった。
 でも、ここでは毒を盛られるというのは現実に起こることなんだ。
 両親や側仕えから毒があることや簡単な知識は教えてもらっていた。
 しかし、前世での記憶やこれまで毒と接してきた経験のなさから、何の危機感を持たずにいた。
 その認識がエマのおかげでがらりと変わった気がする。
「すごいですね、エマは……」
「いえいえ、そんなすごくないです!」
「私にはない考えでしたし、とても為になりましたよ」
「そうですか……? だったら嬉しいですけど」
 えへへ、とエマは照れたように笑う。
 そんなことを話しているうちに、薪窯の中のマフィンはもこもこと膨らんでくる。
 はじけるようにてっぺんが割れ、さらに膨らみが増していく。
 ある程度膨らむとそこで止まり、表面に焼き色がついていった。
「中まで焼けているか確認しましょう」
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