Love Eater
「なんの…」
「なんの真似かって?俺なりの【簡潔】の仕方だよ。それにしたってダメじゃないリッカ。俺に警戒心お留守とからしくない」
「そう…だったな…我ながら抜けて…っ…」
「フフッ、喋ると痛い?まあ、普段から多すぎる血の気が抜けて良いんじゃない?……ああ、でも……貧血気味だったんだっけ?」
痛いのはお前が傷口を触ったせいだろ!
そんな突っ込みを入れる事すら叶わず。
次の瞬間には蓮華の囁きが耳に吹きこまれ、ただでさえ歪みかけていたソルトの視界がぐらりとゆれて力が抜けていくのだ。
本当に迂闊で油断しすぎていた。
そう思っても最早手遅れだという事も嫌という程理解している。
ここに来てようやく蓮華の拘束から自由を得た身体がガクンと膝を着くも、ソルトにとっては不都合な解放でしかない。
倒れたくないし意識を失いたくもない。
なのにソルトの意志に反して強制的に身体がソルトを不能にしに来るのだ。
精一杯あがいてみても結局は地面にぐしゃりとつき崩れて。
殆ど霞んで閉じかけている視界に蓮華の姿がゆらりと静かに収まってくる。
そんな蓮華にせめてもと最後まで憤りの眼差しを向けるのに、蓮華と言えばにっこりと微笑みソルトの血に染まった手をバイバイと振って見せてくるのだ。
「蓮…」
「……おやすみ、リッカ」
そんな蓮華の声を聴き取ったのが最後。
嫌だ。と喚く意志に反してソルトの意識は『おやすみ』なんて言葉に無理矢理に沈められて途切れていく。
視覚が閉ざされた刹那に他の五感が研ぎ澄まされるも、すぐに聴覚まで閉ざされ始める。
そうなってしまえば際立つのは嗅覚なのだ。
ああでも、
自分の血の匂いが鬱陶しい。
蓮華の匂いも煩わしい。
なんでこんな…。
それでも最後の最後。
完全に意識が途切れる刹那、嗅覚を掠めたのは。
甘い……。
そんな、飢えを覚える匂い。
「僕に何の用なのさ?」
追って響いた声音はソルトが探し求めた物であったのに、一足早く聴覚は閉ざされていてソルトが拾う事は出来なかったのだ。