Love Eater



六花のそれは様々な欲を持ってそれを求めて得て失ってした人間の死にたがりとは根本が違う。

何かに絶望してその命を絶つ事を望んでいるわけではないのだ。

寧ろ何かを失う程欲を満たした事もなければ抱いた事もないまっさらな状態だからこそ、ただ一つ得ている死に向かっているに過ぎない。

それをようやく薄らソルトも理解し始めてくれば、ただの孤児だろうという六花への決めつけた認識も変わってくるというもの。

だからこそ再度やり直す様に振り出しに戻ると。

「お前…両親は?」

「知らない」

「知らないって…じゃあ今まで育ててくれた人間はいないのか?」

「……いない」

「そんな馬鹿な」

程々に成長した子供が放置されたというのなら生き伸びる知恵があってもおかしくない。

それでも六花は現状で5,6の子供。

親の記憶が全くなく、育ての人間すら記憶にないというのはどうにも生き延びてきた過程が予測できない。

ソルトがどういうことだと顎に手を添え神妙な顔で頭を悩ませた刹那、ようやく六花からの補足の言葉が弾かれるのだ。

「半透明の女ならいた」

「あっ?」

「なんか見えたり消えたりする半透明の女が僕の周りをうろうろしてたのは薄ら覚えてる」

「はあっ?なんだそれ?幽霊とかそういう事か?」

「知らない。姿は見えても喋れたわけじゃない」

「喋れたわけじゃないって…、っ…百歩譲ってその幽霊みたいな女が育ての親だとしてだぞ。誰がお前に言葉や最低限の知識を教えたんだよ?それに食事は?」

「知らない。気が付いたら僕はもうこんな風に出来上がってたし、記憶する限り口から食物を摂取したことなんてない。空腹って感覚を覚えた事もないし」

「っ__!?」

未知との遭遇とはこれまさに。

深く切り込めば切り込むほど自分の理解の範疇を越えていく六花の素性には脳内バグを起こしそうな程に。


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