part-time lover
「透子ちゃんは今日からお休みだっけ?」
「はい。昨日仕事納めして5日間はお休みです。陽さんはお盆期間中も会社に出ることが多いんですか?」
「そうだね。遅くまでかかることはないけど、やることはちょこちょこあるかな」
ものの5分もせずに一杯目のグラスを空にして、2杯目のビールを注文する。
「いつにも増して飲むの速いですね」
思わず笑ってしまった。
「ごめん、勢い良すぎたかな。
喉乾いてて」
少し恥ずかしそうにはにかみながら彼が答えた。
「お仕事の後の一杯はおいしいですもんね。特にこんなに暑い日だと」
2杯目のビールと共に料理が到着した。
それを見て少し驚いた表情をする陽さん。
「あ、ムール貝好きなんだよね」
「よかった。この前、貝のお料理はわりとよく食べてたの思い出して勝手に頼んじゃいました。白ビール蒸しって珍しいですよね」
「さすがよく見てるね。好きなものだけよく食べるって分かりやすいな、俺」
予想が当たってよかった。
「あったかいうちにいただきましょう」
あまりにやけるのも恥ずかしいので、食事に集中することにした。
ガーリックの風味が白ビールとムール貝の濃厚さでマイルドになって美味しい。
彼の方に視線をやると、丁寧に殻から身をはずして口に運ぶ所作がやはり綺麗だと思った。
「ワイン蒸しはよくあるけど、白ビールで蒸すのも美味しいね。今度やってみようかな」
熱さに顔をしかめて飲み込んだ後、タオルで口元を拭いながら彼がそう言った。
「お料理するんですか?」
「休みの日はたまに。嫌いじゃないんだよね。透子ちゃんは?」
正直やらなくはないけど、貝の酒蒸しは家でやろうと思えない程度のレベルだ。
「お恥ずかしながらあんまりやらないですね〜」
家庭的でない自分に悲しくなりながら答えると、彼が笑った。
「なんかそういうイメージかも。
お仕事帰ってからご飯作るのも大変だよね」
「時間ないことはないんですけどね。
自分一人のためだとあんまり作る気にならなくて」
「そういうもんか。たしかに俺も一人暮らしの時にはやらなかったなー」
「大学時代は一人暮らしだったんですか?」
「そうだね。大学から上京して、その時は一人暮らし」
前回会った時から、今までの私には教えなかったであろう彼のエピソードが聞けることに少し優越感を覚えた。