part-time lover


彼がビールを喉に流す軽快な音で、その沈黙が中和される。
グラスから口を離して息を吐いたあと、視線をテーブルに移して口を開いた。

「結婚してる身で言うのも変な話なんだけど、お恥ずかしながら、今までちゃんと自分が好きになった人と付き合ったことがなくて。妻と付き合ったのも学生時代に向こうから告白されて、なんとなくOKした流れでここまできたんだよね。
付き合っていれば好きになるもんなのかなとも思ったけど、そういうわけでもなくて。
夫婦生活を送る分には子供もいるし、全然問題ないんだけど」

倦怠期の息抜きの浮気かと思っていたのに、予想外の発言に息が詰まった。

「それって、辛くないんですか?」

私も今まで全く異性として意識をしていない男性からアプローチを受けたことはあったけど、さすがに自分が好きになることが難しいことがわかっていれば、断るのがお互いのためだということくらい分かっていたのに。

「辛くはないかな。低め安定というか。
その分気持ちが高まることもあんまりないけど、家族ってくくりを考えたらその方がむしろ好都合なのかなとまで思ってる」

その言葉を聞いて、同情とも落胆ともいえない感情が目覚めた。
恋愛と結婚は別というけど、このご時世でも恋愛感情なしに結婚に至る夫婦はどれくらいいるんだろう。

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