part-time lover

「結婚してから、好きになっちゃった人がいたんですか?」

私のダイレクトな質問に一瞬彼の動きが止まったあと、観念したような表情で話し出した。

「するどいね。
一回だけ、前の職場でね。
まだ社会人になって2年もしない時だから、透子ちゃんくらいの年齢の時だね。
同僚の子だったんだけど、その子も透子ちゃんみたくよく飲む子だったな」

甘酸っぱい思い出だったんだろうか。
少しだけ切なそうに笑う彼の顔を見て胸が締め付けられた。

「その方とはその…進展があったりしたんですか?」

なんと質問していいのかわからず、思わずふんわりした訊き方になってしまった。

「そうだね。流石に職場じゃまずいと思ったけど、一度動いたら歯止め効かなかった。
幸いにも職場の人にはバレずに済んだんだけど、さすがに続けられないって、先に彼女の方が会社辞めちゃって。
その後全く連絡取れなくなっちゃってさ。
今も元気にしてたらいいんだけど。
だから、透子ちゃんと音信不通になったらどうしようって必要以上に不安になったのかも。
普段ならあんなこと言わないんだけど、酔った勢いで変なメールしちゃってごめんね」

情けなさそうにビールを流し込む彼を見て、無性に触れたい気持ちになった。
悲しい恋を思い出させてしまうきっかけを私が作ってしまったんだとしたら、申し訳なさで心が痛む。

「いやいや、こちらこそ連絡取れないことがそんなに大きなことと思わず軽率でした。ごめんなさい」

気まずさから私もビールを流し込んだ。
辛うじて理性的に話せてるつもりだけど、だいぶ酔いが回っていることに気づく。

「透子ちゃんが謝るところじゃないよ。
ごめんね、いらないことばっかりベラベラ話しちゃって。
透子ちゃんは?彼氏とは順調?」

頬杖をつきながら瞳を覗き込んで、このタイミングで彼氏の話をするなんて意地悪だと思った。
別に隠す必要はないけど、特段ここで話す必要もないだろうに。


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