稲荷と神の縁結び
「もうこれで十分だな」

ホテルのエントランスを抜けた辺りで、清貴さんが小声で呟くように言った。
私はため息をついて、繋がれていた手をほどいた。

「大丈夫…でしょうかねぇ………」

「俺がびっくりするぐらい、完璧だったぞ」

「なら、いいです……」

「しかし…『お兄様』って……」

クスクス笑っている清貴さん。似合わないとでも言いたいのか。
そりゃうちは普段、ちかも私も圭ちゃんと呼んでいるし……父に至ってはクソオヤジ呼ばわりされているのだが。(言ってるのは主に圭ちゃんであるが)

「外ではそう呼びますよ。何ならお祖父様が生きていた頃は…圭ちゃんのことはずっとお兄様って呼んでましたもん」

「えっ?」

「お兄様呼びだったし、親のことはお母様、お父様と呼ばされてたし……三歳まではママパパって呼んでましたけど、三歳なった途端そう呼ぶと…お祖父様に叩かれていたから、強制的にそう呼ぶようになったんです」
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