稲荷と神の縁結び
「確かに全部投げ出せたら、楽でしょう。でも…そこまで全てを投げ出して、壊す勇気もない。
私達は、家を守る為に産まれてきたんです。それ以上に意義を見出だせない。
それに…そうしてきたことで、守られてきたことも沢山あるんですよ」

私達が守っているものは‐遥か昔から…ずっと私達の先祖が守り続けてきたものだ。そのおかげで今がある。今更失くすことなんかできないのだ。


ただ一つ‐救いと言えば、何だけれども…
「でも圭ちゃんは、夕湖ちゃんと結婚してくれて良かったです。
夕湖ちゃん、ずっと圭ちゃんのことが好きだったから…初恋の相手と結ばれた、貴重な例なんですよ」

私達の生まれがどうであれ……夕湖ちゃんは圭ちゃんと結婚し、幸せを手に入れた。そんな家のことなんか、圭ちゃんと結婚できた幸せに比べればどうってことはない。そう夕湖ちゃんは言っている。

だから私は、悲観せずにやってこれた。
いつかはちゃんと幸せを手に入れられるのだと、そう希望を持つことができた。


「だから……そんな幸せになれない、なんて思ったことはないです」

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