稲荷と神の縁結び
さすがに落とされるのは怖いので、しっかりと肩に手を回して捕まった。


(うわぁ…)
ふと視線を上にやると‐至近距離に清貴さんの顔。
下から見上げる横顔は、余計にあの端正な顔立ちが目立つ。
長い睫に、スッと通った鼻筋も。下から見上げることで強調されて見える。


今は私が、この至近距離で見ている顔。
いつかはきっと‐別の人がもっと…近い距離で見つめ合うのだろうか。

きっとそれは遠くない未来の話で、それはつまり…この居心地の良い生活の終わりだ。そのことを思うと‐ほんの少しだけ、心が痛む。

「……何?」

ふと清貴さんの視線が下がり、見つめ合う形になる。澄んだ私を見つめる瞳に、さっき以上に心拍数が上がっていく。

「……何でも、ないです………」


素早く視線を反らすが…上がった心拍数が戻らずに、動悸がずっと収まらない。
きっとこの気持ちは……こんな抱えられている体制だからだ。下ろしてもらえるまでの我慢だ。
そう必死に言い聞かせて、必死に冷静に戻ることに徹していた。
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