稲荷と神の縁結び
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「あ、停まってもらっていいですか?」

車に戻ってきた私達は、神社に向けて車を走らせていた。
流れがゆっくりな、休日の国道。ふと道の向こうに、あの店が目に入ったのだ。


「すいません、手土産買っていこうと思うんですが……」

「ん?あぁ、いいけど」

「あそこの和菓子屋さんで停めてもらっていいですか?」


数百メートル先に、最中がおいしい和菓子屋さんがある。まだ創業して数年の新しい店だが、元々は老舗の行列もできる程人気のある店から独立した店なのだ。

車は店の前に止まり、清貴さんを残して和菓子を買いに行くことに。
メディアの取材も断り宣伝もほとんどしていない店なので、いつもがらんとしている。今日も私が行った時点でお客さんはゼロであった。


私は素早く十個の箱入りの最中と、バラで二つの最中を注文する。
あの職人さんが黙々と作業しているのを眺めている間に、あっというまに商品が出てきたので受け取り車に戻った。

「おまたせしました。どうぞ」

私はバラで買った最中を、一つ清貴さんに差し出す。
清貴さんは最中を咥えると‐サイドブレーキを引いて、車を発進させた。

「あれ、何かこれ……?」

清貴さんは最中を食べながら、不思議そうな顔をしている。
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