稲荷と神の縁結び
午後六時。
私は不機嫌な顔をして、あのレクサスの助手席に座っている。勿論、運転しているのは清貴さんである。


「おーい……機嫌直せいい加減」

「無理ですっ」

私は清貴さんに見向きもせず、ひたすら車窓を眺めている。目を合わせてたまるもんか。
その原因を作った本人も、私の反応に不満らしく語尾に苛立ちを感じる言い方だ。

そもそも、何で私が不機嫌なのかと言うと。


「迎えに来るとは言ってましたが、何も定時前に来ることはないでしょう!」

そう、一緒に帰るために清貴さんは私を迎えに来たのだ。
一番忙しく、一番人がオフィスに居る定時前に。


しかも……私は苗字ではなく、こはると名前呼び。

案の定、周辺に居るミドル世代のおば様方の視線が集中砲火の如く、私に降り注がれた。


尚且つ、極めつけは……ざわざわと視線を送るおば様方に、清貴さんがこう言い放ったのだ。


「皆さん、もうすぐ彼女と結婚しますので。よろしくお願いしますね」


仕事では一切見せなかったにっこりスマイルで言うものだから……そりゃもう。オフィスの騒ぎっぷりときたら例に見ないぐらいで。
私は仕事を猛スピードで終わらせて、清貴さんを引っ張って会社を出たのだ。
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