稲荷と神の縁結び
信号が青に変わると、清貴さんは手をハンドルに戻した。
「こはるは何も負い目を感じなくていい。むしろ俺が、無理矢理金で従わせたように思うことがある……」
チラッと横目で清貴さんを見ると…少し不安そうな顔をしている。
彼には私を買ったという自覚があって、色々思うことはあるだろう。
だけど……私は、彼が強引にでも来てくれて良かったと思う。
「でも清貴さんが…こうして来てくれなければ、一生気持ちを自覚せずに、永遠に清貴さんに片思いしてたかも知れません」
きっとこの人が強引に押し掛けて来なければ…私はこの思いを抱えたまま誰かと結婚し、清貴さんが誰かと結婚するのを見ていただろう。心を傷めながら。
きっとどこかでこの思いに気付いて……後悔をしながら、毎日を泣いて過ごしていたに違いない。
‐殻を破ってくれたのは、この人なのだ。
不安だなんて、思わないで欲しい。
「好きな人に、側に居ていい権利を買ってもらえた。私はそんなラッキーな人なんだなって思っておきます」
そう微笑んで、清貴さんを見つめた。
すると「ようやくこっちを見たな」と。ほんの少し口角を上げては、一瞬だけ頭をクシュッと撫でた。