偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「愛しい妻のあれこれ想像して、楽しむのも夫の権利だ」
「な、何……きゃあ!」
尊さんの言葉に動揺したわたしは、段差に躓いてしまう。
「おっとあぶない」
とっさに尊さんの手が伸びてきて、わたしを軽々と支えた。そしてしっかりその場に立たせてくれる。
「ありがとうございます。すみません、迷惑をかけてしまって」
「どうして? 迷惑だなんて思ってないよ。那夕子はいつも遠慮しすぎだ」
「そうでしょうか? 十分尊さんや川久保家の人たちには甘えているとは思うんですが。あまりお返しができてなくて、申し訳ないです」
さらりと手をつないできた尊さんにドキドキしながら、彼の車まで歩く。
「那夕子はなんだか、いつまでたっても堅苦しいよね」
非難されているわけではないとわかっているけれど、褒められているわけでもない。そう言われた理由が知りたくて、車の前で足を止める。
「きちんとしたい、お返しがしたいと思うことは悪いことですか?」
むっとして思わず言い返してしまう。
「ごめん、気を悪くさせた。でも、那夕子はもっと受け取るべきだ」
「何をですか?」
「周りからの好意。那夕子は僕との夫婦のフリをどうしてうけてくれたの?」
「それはおばあ様が喜ぶと思って」
「そうだね。別に断ることもできたのに君はそうはしなかった」
向かい合って立っていた尊さんの両手が、わたしの手を取った。大きな手のひらから伝わってくるのは彼の体温とその優しい気持ちだ。