偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「君のしていることに対して、お礼がほしいと思っている?」
「いいえ! そんなことはまったく」
わたしは頭を左右に激しく振った。
「そうだよね? 僕だって一緒だ。僕が君にしていることは、君を喜ばせたいだけ。だからそれを素直に受け取って甘えてほしい」
尊さんは身をかがめて、わたしの顔を覗き込んだ。
これまでそんなふうに言われたことはなかった。小さいころから両親に自分のことは自分でするようにと言われてきた。大人なんだから、なんでもひとりですることが正しいんだと思っていた。
これまでこんなふうに面と向かって『甘えていい』なんて言われたことのなかったわたしはなんだか胸の中がくすぐったくなる。
目の前にいる尊さんは、とろけるような笑顔でわたしを見ていた。
何もかも預けてしまいたくなるような、そんな笑顔だ。
「本当にいいんでしょうか?」
「いいんだよ。それに僕の場合はちょっと下心もあるからね」
「ど、どういう意味ですか?」
「ん? あわよくば僕のこと好きになってもらえないかなぁと思って」
かあっと顔が一気に赤くなる。耳まで熱をもってジンジンする。彼が向けてくる意味ありげな視線が、わたしの心をかき乱す。
本当に好きになったら……どうするつもりだろう。
からかわれているとわかっている。いつもの軽口の延長。
けれどわたしの心は勝手に暴走をしてしまっている。
静まれ心臓!
あたふたしているわたしを笑った尊さんは、助手席のドアを開ける。