偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
だけどもっと彼の話を聞きたい。彼について知りたい。自分のことも知ってもらいたい。触れられるとドキドキして、微笑まれると胸の奥がうずく。
ここ数日、自分の変化に悩んでいた。正直〝夫婦らしく〟というのが今のわたしにはつらかった。
どうしても彼を意識してしまうから。
「とても美しいね。この時期しか見られないと思うと、なおさらそう感じてしまうものなんだろうね」
「え……っ? ああ、はい。そうですね」
歩きながら彼の視界を追うように、顔を上げる。
空を覆いつくさんばかりの桜の花に、しばし時を忘れたように魅入ってしまう。
尊さんとわたしが踏みしめる砂利の音が交互に耳に届く。やがてそれが重なり、ふたりの歩調が合ったとき尊さんが足を止めたので、不思議に思い彼の方へと視線を向ける。
「……ど、どうかしましたか?」
彼はじっとわたしの方を見ていた。どぎまぎしてしまうほど、少しも目をそらさずに。
すごく綺麗な目だと思う。こうやって向かい合うのははじめてではないのに、それでも、やっぱり惹きつけられた。
「せっかくなので、なにか僕にしてほしいことはない? 僕から聞かないと君はなにも言ってこないから」
そんな急に言われても、正直困ってしまう。今のところ、ひと月前の自分と比べてとても充実した毎日を送っている。不満などない。