偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
わたしのしていることは、そんなに難しいことではないと思う。けれど、何をしても彼はきちんと感謝を伝えてくれる。
自分が取るに足らない存在だと思った日もあった。けれど、彼の傍ではそういうふうに自分を卑下することなく過ごせる。
『ありがとう』や『助かります』という言葉とともに向けられる、優しいまなざしや笑みがわたしの失われた自尊心を取り戻してくれた。
そう思えば、彼には感謝しかない。
それをどう伝えていいのか、どうすれば伝わるのか……ひとつひとつ言葉を選んで伝えた。
「わたしこんなに早く心から笑えるようになるなんて、思っていませんでした。尊さんと出会ったころ、なにもかもなくして、思えば自信がまったく無くなって、必死に耐えていたんです」
尊さんは、いたわるような視線をわたしに向け、先を促した。
わたしの話をきちんと聞いてくれている。こういう態度の一つひとつが傷ついたわたしを強く立ち直らせてくれる。
「でも尊さんやおばあ様、秋江さんと一緒にいて、自分にできることを思い出して、誰かの役に立てているんだと思えるようになりました。気持ちが前向きになれたというか……。おばあ様を元気づけるためにいるわたしが、逆に元気にしてもらって、なんだか給料泥棒ですよね」
笑って見せたわたしに向けられる彼の目は温かい。まるで自分のことのように喜んでくれているように思える。
「僕も、君の役に少しはたっているかな?」
どうしてそうなるのだろう。一番、感謝を伝えたい相手に伝わっていない。