偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「もちろんです! わたし、色々とあったので男性とはしばらく距離を置きたいなって思っていたんです。でも、尊さんと一緒にこうしているのは、すごく楽しくて――あっ」
思わず本音を口にしてしまって、慌てて繋がれていない右手で口元を押さえたが、わたしの言葉はとっくに彼の耳に届いてしまっていた。
「楽しくて、それで? 続きが聞きたい」
先を促される。こういうときに見せる尊さんの顔はちょっと意地悪だ。
嫌いじゃないけど。
自分の気持ちを言葉にするのは、誰だって恥ずかしい。ことに、相手が意識をしている人ならば余計に。
そう、わたしは完全に尊さんを意識していた。男性として。
きっと彼でなければ、こんなに早く恋愛に関して前向きになることはなかっただろう。
彼としては、おばあ様の為にやっていることだ。わかっているけれど……それでも。
「もっと一緒にいられればいいな……と思っています」
言った……。とうとう、自分の素直な気持ちを尊さんに伝えた。
手に汗が滲み、心臓がドキドキする。こんなに勇気を出したのはいつぶりだろうか。
俯けた顔が上げられない。ぎゅっと目をつむる。