偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「そうやって甘やかすと、僕はどんどんつけあがってしまうけど、わかってる?」
……え? つけあがるって、なに? それってもしかして……。
目を開く。自分のつま先が目に入る。その先には彼のつま先。それが一歩近づいた。
顔を上げると、尊さんと目が合った。
「どうしてそんな驚いた顔をしているの?」
クスクス笑う彼。
わたしってば、いったいどんな顔をしているというの?
慌てて両手で自らの顔を覆う。
「隠さないで。君の顔が見たい」
尊さんはわたしの手を握った。そしてそう強くない力で、わたしの顔を露わにさせる。
もちろん逆らおうと思えば出来るくらいの強さだ。けれど、わたしはそれをしなかった。彼の思い通りにされるのを選ぶ。
尊さんの指がわたしの頬にかかった髪をうしろへなでつけた。まっすぐにわたしを見据える彼の瞳から、目が離せない。
「那夕子は、自分の価値を見誤っている。わたしの知っている君は、とても親切で、人のことを思いやり自分を捧げられる素晴らしい人だ。そのせいで傷つき時には自分を責めてしまう人」
「わたし、そんなにいい人じゃないですよ」
わたしの言葉に尊さんは、ゆっくりと首を振った。
「いえ、それにつけ込んで無理なお願いをした」