偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 きっと夫婦のふりをするということだろう。

「それは、わたしも納得しましたから」

「ほら。そうやってまた僕を甘やかすから、つけいる隙を与えることになるんだ。僕はあのとき、君との縁が切れてしまうのが嫌だと思った。たから、あの状況を利用した。がっかりした?」

 まさか、そんなつもりだったなんて。本当ならば責めてもいいはずだ。けれどわたしはそんなことは思いもしなかった。

 結果として、わたしも今の生活を大切だと思えるようになっているからだ。

「がっかりなんて、するはずありません」

 しっかりと否定すると、彼が少しほっとした顔をする。

「近くにおいて、もっと君のことを知りたいと思った。笑顔を見せてくれるたびに、年甲斐もなく心が踊って、君のためにできることを考えていた」

 そして恥ずかしそうに、顔を横に向ける。

「ヤキモチだって……君は笑ったけど、僕は本気だった」

 彼の耳がほんの少し赤い。それを見てときめいてしまう。

 尊さんは一呼吸して髪をかき上げた後、もう一度わたしの方を向いた。

「那夕子、僕と本当の夫婦になるつもりはない?」

「ふ、夫婦……ですか?」

 いきなりそこまでとなると、さすがに戸惑ってしまう。突然のことに驚いたわたしを見て、尊さんはふんわりと笑った。

「少しいきなりすぎたか。でも、まずは僕とつき合ってみない?」

 彼はわたしの手を取った。

「僕は、君と――嘘の関係ではなく、本物になりたいです」

 ぎゅっと手に力がこもる。
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