偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
真剣な眼差し。ひたむきに向けられる思いに胸が震える。
まさか彼も同じような気持ちだったなんて。こんなときに、気の利いた言葉のひとつも出てこない。だけど彼への思いは間違いなく本物だ。
だからごまかしたりしたくない。真剣にわたしに思いを告げてくれた彼に応えたい。
けれど、素直に飛び込む勇気が出ない。翔太との苦しい恋愛がわたしの心の中でトラウマになってしまっていて、躊躇してしまう。
「わたしが、尊さんの本物になれるでしょうか?」
わたしは自分の出す答えに自信が持てず、尊さんに尋ねた。きっと、彼の言葉ならば素直に聞けるはずだ。
「あたりまえだよ。僕が心から欲しいと思った人なんだから」
尊さんは手を伸ばし、わたしの頬に触れた。骨張った少しかさついた男らし大きな手。伝わってくる彼の体温が、心地良くもあるが、ドキドキもさせる。
少し触れられるだけで、いろいろな感情が湧き出てきた。
「自信が持てないのなら、それでもかまわない。僕が不安なんて感じさせないくらい、あなたを思い大切にするから」
言葉が視線が……彼のまとう全てが、わたしへの思いを伝えてくれている。
「だから、僕のものになって。那夕子」
尊さんが身をかがめて、わたしの額に彼のそれをコツンとつけた。吐息が肌をかすめ、視線が答えを乞うてきた。
自分が思いを寄せる人にここまで言われて、拒むなんてできない。この先どうなったとしても、わたしは今日の自分の選択を絶対に後悔しないだろう。