偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「はい。尊さんのものに、なってみたいです」

 自分の言葉に耳まで赤くなっているのが分かる。恥ずかしくて目を伏せていたわたしの頬に、柔らかいものが触れた。

 ぱっと目を開くと、至近距離で微笑む尊さんの顔。

「……あの……っ……ん」

 かすめるように唇が奪われる。驚きで目を見開きながら、さっきの頬に触れたのも彼の唇だとやっとわかった。

「誓いのキスだ」

 驚いた。けれどうれしそうに目を細める彼を見ると、胸がキュッと疼いた。

 はずかしいけれど、うれしい。

 色々な感情が次々にとってかわるわたしの心がとても騒がしい。

 そんな赤い顔のままのわたしの手を尊さんが取り歩き出した。しっかりと指を絡めて。

 それはまるで『離さない』と言われているようで、くすぐったくもあり、うれしさで泣きそうでもあり……やっぱり、わたしの心はとてもめまぐるしかった。

 特別会話を交わしたわけではない。けれどつないだ手や眼差しが雄弁にお互いの気持ちを語っていた。

 少し歩いた先にあるベンチで、隣り合って座る。

 これまでも並んで座ったことはあったけれど、ぴったりと寄り添うその距離感が、ふたりの新しい関係を表しているようでなんだかくすぐったい。

「よかった、これが無駄にならなくて」

 彼がジャケットの胸ポケットから出したのは、ブルーのベルベットの長細い箱。
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