偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「遅くなってしまったね」
「そうでだね。僕たちのお団子はもう残っていないだろうね」
のんびりそう言った彼は、急ぐ様子もない。
「あまり待たせたら、悪いですよ」
「かまわないよ。新婚夫婦の邪魔は、いくら祖母でもしないだろうし」
「そう……ですか」
尊さんは今までもこんな言い方をしていた。けれどずっとかりそめの夫婦だったので、恥ずかしいけれど、今ほどではなかった。
なんだか現実に彼の〝本物〟になると決め、新しい関係が始まったせいなのか、いたたまれないほどの恥ずかしさを感じてしまう。
現実味を帯びたせい?
「なにを、考えているの?」
「えっ!?」
声を掛けられ、はっとする。
「那夕子は時々、そうやって考えこむことがある。僕のことを考えてくれているとうれしいんだけど」
その通りです。あなたのことで頭がいっぱい……とは言えず。
「あはは……少し急ぎましょう」
笑ってごまかすわたしの手を引き、尊さんはクスクスと肩を揺らしながら歩いた。