偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 わたしは尊さんのことが好きで、彼も同じ気持ちだ。そうなれば自然なことなのだろうけれど、今日の今日で……展開が早すぎる。

 いい大人が、とは自分でも思うけれど、それでも覚悟ができない。

「那夕子」

「は、はいっ!」

 突然背後、それもすぐ近くから声をかけられてわりと大きな声が出た。肩をビクッとさせて、振り向く。

「お茶が入ったよ。けっこう歩いたから疲れたよね。休憩しよう」

「はい。ありがとうございます」

 ひとりあれでもない、これでもないと考えていたのが恥ずかしい。まるで自分だけ期待してしまっているようだ。

 いくら彼が鋭いからと言って、わたしの頭の中までは覗けないだろう。

 ふかふかの座布団の敷かれた座椅子に腰を下ろした。向かいに座っている尊さんが、綺麗な所作でお茶を淹れてくれる。こういうところに育ちの良さが出ている。

 ふうふうと息をかけて冷ますと、お茶の水面に波紋ができる。そろりとひと口飲むと、口の中に渋みと甘みが広がる。

「おいしいです。尊さんはお茶を淹れるのも上手なんですね」

 週末に彼の淹れてくれるコーヒーも絶品だ。そしてこのお茶もすごくおいしい。

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