偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
露天風呂に足を踏み入れたわたしを、もうもうと立ち上る湯気が出迎えた。
あれから部屋で少し早めの食事を終え、旅館自慢の温泉を楽しむことにしたのだ。
体を綺麗にして、手すりにつかまりながらゆっくりと湯につかる。
ちょっと熱い……でも気持ちいい。
広い公園を歩いたので、足をマッサージすると疲れが取れるようだ。
ごつごつとした大きな岩が並び、緑の木々の中にある灯篭がぼんやりと暗くなり始めた周りを照らした。
「ふー」
肩にさらりとした湯をかけながら、上を向くと自然と声が漏れた。薄むらさき色の空には、小さな星がひとつだけ見えた。
ここは別館に宿泊している顧客のみが使える露天風呂で、今はわたしの貸し切りだった。先ほど二人組の若い女の子たちが入れ替わりに脱衣所に向かっていた。
温泉なんて、いつぶりだろうか。体があたたまるにつれて、気持ちも徐々にほぐれていく。
尊さんは、隣にある男性用の露天風呂に入っている。もしかしたら、今同じように空を見上げているかもしれない。
離れていても結局考えるのは、彼のことばかりだ。
ひとりになってドキドキする気持ちを落ち着けようと思ったけれど、あまり意味がなかった。今の自分の心の中は、彼でいっぱいなのだから。
この後のことを考えるとまた緊張してしまうので、あまり考えないようにした。
とはいえ、いつもよりも念入りに色々なところを磨き上げた。
女心は、複雑だと思う。