偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
そうこうしているうちに、結構な時間が経過していた。脱衣所に出て壁の時計を見て驚く。
きっと尊さん、待っているはずだ。
古い歌ではないけれど、あまり遅くなると彼が芯まで冷え切ってしまうのではないか。
慌てて髪を乾かして、浴衣に袖を通す。最後に尊さんにもらったネックレスをつけて、一応鏡でおかしなところはないかとチェックして、彼のもとに向かう。
外にある湯上り処に、尊さんの姿を見つけた。まだこちらに気がついていない彼が、グラスのビールを喉を上下させながら、おいしそうに飲んでいた。
ビールひとつ飲むのも、あそこまでかっこいいなんて反則だ。
そんなふうにちょっと感心しながら歩いていると、さきほど脱衣所で一緒になった二人組の女性たちが、声を弾ませた。
「ちょっと、あの人めちゃくちゃいい感じじゃない?」
「あー、わたしも同じこと思ってた。ねぇ、声かけちゃう? さっき社員旅行の集団を見たから、その中のひとりかも」
彼女たちの会話を聞いてぎょっとした。間違いなく尊さんの話をしている。