偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「あんなにかっこいいなら、彼女がいるよね?」
と、ひとりの女性。
ここ、ここにいます!と心の中では声を上げるが、実際は固まってなにも言えない。
「でも、だからって可能性がないわけじゃないでしょう? だって指輪していないもの。まだ法律的には誰のものでもないみたいよ」
たしかに、そうだけれど!
目の前でそんな会話をされているのに、悔しいかな……尊さんのもとに近づけない。
わたしが彼のところへ向かえば、彼女たちの視線がわたしに向くだろう。そしてきっとあれこれと点数をつけるに違いない。
知らなければそれで済むけれど、おそらくあまりいいようには言われないだろう。それがわかっていてなお、気にせずに彼の隣に行く勇気がない。
早く行ってくれればいいのに。そう願っていると、尊さんがこちらに気がついてわたしに手を振った。
「きゃあ! こっちに手振ってるよね?」
え?
目の前の女性ふたりが、黄色い悲鳴を上げた。どうやらうしろのわたしの存在には気がついていないようだ。
これではますます出ていきづらい。
どうしたらいいのかとオロオロしていると、不思議に思った尊さんが「那夕子!」と極上の笑顔でわたしを呼んだ。
目の前の女性ふたりが同時に振り向いた。その視線は上から下までわたしを一通り眺めて、驚いた顔をした。
そんなあからさまな態度……しなくてもいいのに。