偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
たしかにつき合っているときは、誕生日やクリスマスにプレゼントをもらった。けれどわたしも彼のリクエストに応えて、プレゼントを渡していた。普通の恋人同士のやりとりだと思っていたけれど、違ったのだろうか。
「お話しすることは、特にありませんので」
彼の脇をすり抜けようとすると、腕を掴まれた。嫌悪感が身体中を駆け巡り、腕を振りほどこうとする。けれど翔太は嫌がるわたしを面白がるように笑う。
「そんなに邪険にしなくてもいいだろ。俺も使える金が増えたんだ。今ならもっとお前にいい思いをさせてやれる」
「聞き捨てならないですね」
わたしが声を上げようとしたそのとき、地を這うような低い声がその場に響いた。
「尊さんっ!」
さっと手を引かれて、彼の後ろにかばわれる。視界が広い背中で隠される。
彼はチラッと背後にいるわたしを見て「大丈夫だから」とでもいうようにうなずいた。
わたしはそれまで気を張っていたのが急に緩んで、目頭が熱くなった。悔しさが零れ落ちそうになるのを我慢する。
「……川久保製薬の?」
「ええ、川久保尊です」
最初に尊さんと対峙したときは、暗闇ではっきりと顔が見えていなかったようだ。この場で始めて、記憶と尊さんの顔が結びついたに違いない。
相手が取引先の重役だとわかった翔太は、それまでむき出しにしていたわたしへの失礼な態度をひっこめた。
「片野です」
翔太がスーツのポケットから名刺入れを取り出そうとすると、尊さんはそれを止めた。