偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「大丈夫?」

 それはすでにいつもの尊さんの声だった。ほっとしてわたしは小さくうなずいた。

「いいや、大丈夫なはずがないな。ごめん、僕があなたをひとりにしてしまったのが悪かったんだ」

「違います。尊さんはなにも悪くないです。わたしがちゃんと対処できればよかったんです」

 しっかりと彼とのことは終わらせたつもりだった。けじめをつけてマンションからも出たし、仕事も辞めた。これ以上どうすればよかったのだろうか。

 翔太の言った最後の言葉が気になる。

 もし翔太が尊さんに、何かをするつもりならどうしよう。

「片野先生とわたしのことは、尊さんには関係ないのに」

 どん底にいたわたしを、笑顔にしてくれた尊さん。

 彼に迷惑をかけることになったら、いたたまれない。

 わたしはキュッと唇を噛んだ。

「那夕子。関係ないだなんて、寂しいこと言わないで。もう君に関するすべてのことが、僕にとっては自分のことと同じなんだ。それを拒否するようなことは、言わないでほしい」

 ハッとしたわたしは、顔をあげて尊さんを見る。

 わたしを見つめるその表情はどこか寂しそうだった。わたしの言葉が彼を傷つけてしまったのだ。

「わたし、決してそういうつもりじゃなかったんです」

「わかってるよ。那夕子が甘え下手だってことは。だから今後はもっと僕を頼って欲しいんだ」

 彼がわたしを抱き寄せた。彼の胸に顔を埋める。

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