偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「先にシャワーを浴びさせてもらう。朝食は祖母と一緒に」
彼はわたしの返事も待たずに、そのまま部屋を出て行ってしまった。
バタンと扉が閉まったのを確認して、体の緊張を吐き出すかのごとく大きなため息をついた。
「その場の雰囲気って……なによ」
それは、そういう雰囲気であれば何をしてもOKということ? いや、さすがにそれはまずいだろう……。
どうしてすぐに否定しなかったんだろう。それって、わたしが本気で嫌がっていないから?
これがもし他の男性だったら、朝目覚めて同じベッドに寝ていただけで、最悪だ。けれど、相手が尊さんだと、一緒に寝ていても恥ずかしいという気持ちはあるけれど、不快感なんてなかった。
「これってもう雰囲気に流されているんじゃ……いや、ダメ、絶対!」
自分はあくまでも、おばあ様の為に妻のふりをするだけだ。だから雰囲気に流されるなんてことあってはならない。
そうはわかっているけれど……ここから先、尊さんからの誘惑に耐えることができるんだろうか。
「なんとかして、そういう雰囲気にならないようにもっていかなくては」
尊さんとしては、からかっているだけかもしれない。けれど、わたしにとっては心臓に悪いことこの上ない。
「これじゃ、わたしが倒れちゃう」
あれこれ考えていると扉がノックされた。
「そろそろ、準備しないと朝食に間に合わないよ」
外から優しく声をかけてくれた尊さんに「はい」と短く返事をして、わたしは部屋にあるボストンバッグの中から自分の服を引っ張り出した。