偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
朝食を終えたわたしは、玄関ホールで仕事に向かう尊さんを待っていた。
うっ……ちょっと調子にのって食べすぎたかも。
昨日寝落ちするまでワインを飲んで、本当なら朝食はパス――となるはずなのに、並んだ豪華な食事を見て、思わずあれもこれもと食べてしまった。
おばあ様いわく〝食道楽〟らしく、食べ物にはこだわっているようだ。
川久保家専属の料理人が用意してくれた本日の朝食は、完璧な和定食だった。焼き魚に出汁巻き卵、青菜のおひたし、自家製の漬物。それに炊きたてのほかほかの白いご飯。旅館のような朝食に思わず箸が止まらなくなってしまった。
気をつけないと、すぐに太ってしまいそう。
「那夕子、わざわざありがとう」
「えっ! あ、はいっ」
いつの間にかホールに下りてきていた尊さんに驚いた。
「なに、どうかした?」
ぼーっとしていたわたしを、尊さんは腕時計をつけながら、顔を覗き込んだ。
「いえ、大丈夫です!」
朝食を思い出していたなんて……食いしん坊だと思われてしまう。
持っていた彼のビジネスバッグを手渡す。
「朝、妻に見送られるのもいいものだね」
「そう……ですか」
便宜上の妻でも、そういうものなのだろうか。
「祖母のこと、よろしくお願いします」
「あの……お仕事、がんばってください!」
できるだけ明るく、声をかけた。夫婦のフリではあるが少しでも気持ちよく出勤してもらいたい。