偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「それだと、あくまで移動手段みたいになってしまいそうで。目的もなくドライブしたり、ふらっとカフェに立ち寄ったりしたいので、わたしが運転したほうがいいような気がするんです」
「たしかに、言われてみれば。そうなると僕の車だと祖母にはきついな」
「注文をつければ、小さ目の小回りの利くものがいいです。運転しやすいので」
この家には尊さんの車以外にも、二台ほど車がある。けれど、どちらもセダンの大きな車。そして、目が飛び出すほど高級。
ぶつけたり壊したりしたときのことを考えれば、軽自動車をレンタルする方が安上がりだろう。
「お花見に行く前に、おばあ様とショッピングにでかけたり……近場で外出に慣れておきたいな、と思って」
「わかった、すぐに手配する。ありがとう、一日でこんなに色々と考えてくれて。もう少しゆっくりしてくれてよかったのに」
「わたし、貧乏性なのか、動いている方が好きなんです」
花屋さんの手伝いをして秋江さんに怒られた話をすると、尊さんは声をあげて笑った。
「そうか、そんなことがあったのか。あはは、そのときの秋江さんの顔を見たかったな。明日からも怒られても那夕子の好きなようにすればいい。僕は全面的に応援するから、君の一番の味方は僕だ」
「……あ、ありがとうございます」
きっと、なにか特別な意味があるわけではない。けれど、尊さんの〝味方〟という言葉が頼もしくて、胸に響いた。
つい先日まで、恋も仕事も失ってひとりぼっちになってしまったような気分だった。なんとか前を向こうと色々とやっていたけれど、なかなかうまくいかずにいた。
けれど、今はこうやって温かい言葉をかけてくれる人がいる。人の縁とは本当に不思議なものだな。
「わたし、一生懸命頑張ります。不束者ですがよろしくお願いします」
改めて頭を下げたわたしに、尊さんは一瞬驚いた顔を見せた。しかし次の瞬間わたしに手を差し出した。
「こちらこそ、よろしく。僕の奥様一日目、お疲れ様でした」
わたしは尊さんの手を握る。
優しく温かい手に力がこもると、なんだかとても安心できた。