偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
しかし尊さんは、あっけなくそれを見破ってしまったのだった。
「あのとき、尊さんが背中を押してくれてよかったです。やっぱり看護師の仕事が好きなので。あ、もちろん、おばあ様のお世話が嫌ってわけじゃないんですよ。むしろそれは癒やしというか、安心できるというか……とにかく」
話せば話すほど言い訳じみて聞こえてしまう。それに焦ってしまい、いつもよりも早口でしゃべる。
「あはは! 那夕子の気持ちはわかっているから、少し落ち着いて」
なだめるようにわたしの肩を撫でて、反対の手で温かいコーヒーのマグカップを差しだしてくれた。受け取り両手で包むと、じんわりとぬくもりが伝わってきた。
「ありがとうございます」
「いいえ。働き者の妻にこのくらいさせて」
ねぎらいの笑みを浮かべて、尊さんがわたしの隣に座った。
まだ一緒に過ごした時間は、数週間に過ぎない。けれど尊さんはわたしの気持ちをよく理解してくれていると思う。それは元々彼が人の気持ちを汲むのが上手ということもあるけれど、わたしをしっかりと気にかけてくれているからだと伝わってくる。
人との関わりではお互いを見ていないと気が付かないことが、たくさんある。そういう点では、翔太とわたしの間はもうずっと前から終わっていたのだろう。
ふと嫌なことを思い出しそうになって、尊さんに意識を戻した。