偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「気のせいかも知れないですけど、おばあ様は普段はわたしが驚くくらいしっかりされていて、記憶が飛んだりするようなことはないんです。それこそしっかりと昨日の夕食のメニューだったりを覚えていらっしゃって――」

「そうなのか」

 深く考えこむ尊さんを見てフォローをする。

「もし、痴呆ではないというのであれば喜ばしいことなので、一度検査をしてもいいのかもしれませんね」

「ああ、確かに。だが、おそらく祖母はあんなだから、おとなしく検査なんか受けないと思うんだ」

 たしかに言われてみればそうだ。普段のおばあ様はとてもしっかりしている。おそらく事情を説明しても診察を拒否されるに違いない。

「もし今、那夕子が困っていないなら祖母のことは、中村と相談しながらやっていこう」

 主治医である中村先生も痴呆の可能性は低いとおっしゃっていた。それならなおさらなぜわたしが尊さんの妻だと言ったのか、そしてその後も本当に川久保家のお嫁さんとして扱ってくれているのかも理解ができない。

 けれどこれ以上は、本当の家族でもないわたしが首を突っ込むことではないように思えた。

「クリニックの仕事のほうはどう? 中村にこき使われていないか?」

「ええ。大丈夫です。でも……内緒にしてほしいんですけど、中村先生のクリニックが、あんなに人気だなんて想像していませんでした」

「あははっ! 那夕子は正直だな。たしかに見かけだけだと適当な人間に見えるから」

 口元をほころばせたまま、コーヒーを口に運ぶ。

「でも、中村の腕は確かだよ。そうでなければ我が家の主治医をお願いしていない」

 尊さんの言う通りだ。

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