キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 旅行に来て早々に疲労感を感じる。これでは心労が祟って、海に沈んでしまいそうだ。

「ってあれ……あれあれ?」

 唐突に声をあげて足を止めた楓はどこかを凝視している。不思議に思いながらその視線をたどると信じられない人物が鉄板の前に立っており、額の汗を男らしく拳で拭っている。

「え、東堂先生!?」

 そこにいたのは、私たちの担任の先生である東堂克之(かつゆき)先生だった。私の声が聞こえたのか、先生は弾かれるようにこちらを見る。

「お前ら、こんなところでなにしてるんだ」

 目を丸くする東堂先生は、頭にタオルを巻いて焼きそばを作っている。先生は三十歳で、短い黒髪がどこか清潔感を感じさせる熱血教師だ。柔道部の顧問をしているせいか、ガタイもしっかりしている。ちなみに美代は欠員が出た水曜日の彼氏候補にと、東堂先生を狙っている。

「私たち、プチ旅行に来てるんですっ」

 美代は今まで見たことないような、純粋無垢の少女の微笑みで先生の腕に抱き着く。放送事故を見たような気分だった。

「おい宮原、離れるんだ」

「だって、先生に会えたのがうれしくって」

 語尾にハートが付きそうな猫なで声。美代のテクニックだとわかっているけれど、変貌ぶりは末恐ろしい。

「おい、あれは誰だ……」

「あはは……」

    

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