水性のピリオド.
ぱちりと黒目がちな瞳が閉じて、開く。
短めの前髪のせいで広く見えるのか、もともと広いのかわからない額には汗の粒がいくつか浮かんでた。
「す、すげー」
花開くって、たぶんこういう表情のことだ。
綻ぶとはちがう気がする。
間違いなく、最盛期のような笑顔だけど、でもきっとまだ枯れない。
そんな笑顔が咲く瞬間を間近で見つめた。
噛み締めるように言って、目をキラキラと輝かせる。
その反応がわたしの想像を遥かに超えていたものだから、こっちは面食らってしまう。
「ね、先輩。すげー偶然。おれ、明日クラスのなかで自慢していい?」
「いや、自慢にならないでしょ」
「でも、嬉しいから。知ってもらいたい」
それ、聞かされるクラスメイトからしてみたらすっごくどうでもいいことだと思う。
わりとなんでも恋愛に結びつけがちな年頃なんだし、冷やかされるか軽く受け流されるかのどちらかだ。
「あ、でも……名前出したら、先輩が見つかっちゃいますね」
「なに、見つかるって。指名手配でもされてるの?」
「そうじゃなくって。知ってほしいけど、秘密にしたいような気もするから」
これは本当に出会って五分足らずの人間同士の会話なのだろうか。
わたしから巻き始めたペースだけど、どこかのタイミングで春乃くんに手網を渡してしまったらしい。
「先輩。おれ達、これでバイバイ?」
「んー……春乃くんが、先輩お付き合いしませんか、とか言い出すならバイバイせずに済むかもね」
どこまでも上から目線なくせに、心臓はもう飛び出す寸前だった。
こんなこと、言い慣れているわけがない。
予行練習もなしに伝えた随分と高尚な誘い文句に、春乃くんはわかりやすく動揺した。
「え、と……あの、どういう意味で……?」
「そのまんま。わかんない?」
皆まで言ってあげた方がいいんだろうけど、わたしもそんな余裕はないや。
弾むたびに膨れ上がる心臓が破裂してしまいそうだから、もうさっさと理解して、何でもいいから返してよ。