他人と何度も重ねたくちびるで、愛して



「私のこと、みてよぉ……」



涙が、出てくる。冷たい。



ウソだ。嬉しくなんて、熱くなんて、ならない。



残るのは、さみしさと、悲しさと、怒り。それだけ。



どんなに自分を誤魔化そうとしても、もう限界だった。



「私は……っ、いらないん、だね……」



嗚咽まじりに叫ぶ。



もういちど抱きつき、背の高い彼の胸あたりに顔をうずめる。



体を強ばらせ、しっかりと拒絶を示した彼。



背中に、彼の体温は伝ってこない。



もう、ないんだ。



彼と抱き合うことは。



眉尻が、下がる。演技でこういうことができる人間に、なりたかった。そういうことも綺麗にできて、彼を騙すことができたら……。



少しは、私に傾いたかもしれないのに。



彼の目に私は、もういない。
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