さよなら、センセイ
ヒロを見かけてから半月ほど経った。
その日は、終業式の前日だった。

通知表の最終チェックに追われていた恵は、校長室に呼ばれた。

「丹下先生、見つかりましたよ。
東京の、栄華女学院高校。
あそこは歴史もあるし、私も若い頃赴任していたことがありますが、良い所ですよ」

「…?」

校長の話は寝耳に水だった。
恵は何のことかわからず首をかしげる。

「いや、それにしても、丹下先生のご主人が急成長で注目の“アリオン・エンタープライズ”の若社長だったとは。
光英学院の岩田校長から、ご主人は教え子、としか聞いていなかったもので、驚きましたよ」

「結婚しているとはいえ、実際、別居中ですし…主人の仕事に関しては、私は何も…

それより、あの、栄華女学院って、どういう事でしょうか?」

「え?
先日、ご主人が直々に私のところに挨拶に見えた時に、都内の高校に丹下先生の受け入れ先を探して欲しいと。

私としても、丹下先生が抜けるのは非常に手痛いのですが、いつまでも引き留めておくわけにもいきませんからね」

あの時。
ヒロは忙しい時間を割いて校長に直々に挨拶をしに来ていたのだ。

「どうでしょう、栄華女学院。
ご主人とも、ご相談してみて下さい」

「…はい」

新しい赴任先を東京で探してくれ、と依頼したということは。

校長室を出た恵の胸は飛び出しそうなほど、ドキドキしていた。

迎えに来てくれるつもり、なのだろうか。
いや、それならそれなりの連絡があってもいいようなものだが、ヒロからは相変わらず何の知らせもない。


恵は、すっかり雪で白くなった窓の外を見た。
今年も雪のクリスマスになるだろう。東京のようなきらびやかなイルミネーションはないけれど、静かに降り積もる雪の白さも、また、美しい。

去年は、1人だった。一昨年も1人だった。
きっと今年も1人のクリスマス。

「あ、丹下先生、明日の終業式の準備の手伝いをお願いします」
「わかりました」

恵は、体育館へと足を向けた。
とりあえず、目の前の仕事を片付けることが第一優先だった。


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