お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


イートン伯爵家の大型の馬車に、伯爵親子とロザリーが乗り込む。
今日はいよいよ、ザックの母親に会いに行くのだ。
かつて国王の寵愛を受けた侍女は、心を病み、今は離宮に閉じこもっている。後ろ盾のいない彼女の後見人となっているのがイートン伯爵で、月に一度はご機嫌伺いに行くのだそうだ。

「緊張することは無いからね。カイラ様は非常に気が弱いが、心根の優しいお方だから」

イートン伯爵が目を細め、温和そうな笑顔を見せる。
ロザリーは、まだ彼のことが掴めない。女性には紳士的でいい人に思えるけれど、ザックやケネスの話を聞いていると一筋縄ではいかない人のようだ。

「はい」

こくんと素直に頷くロザリーに、イートン伯爵はますます笑みを深くする。

「いやはや、うちの子たちとは違うタイプでかわいいね、ロザリー嬢は」

「父上、それは俺やクロエがかわいくないという意味ですか?」

「いや、お前たちもかわいいよ! 実の子はもう無条件でかわいい。ロザリー嬢も私の子供みたいなものだからね。とてもかわいい」

イートン伯爵は楽し気に続ける。彼のことはまだよくわからないが、子煩悩なことだけは本当な気がする。

「さあ、おいで」

イートン伯爵のエスコートを受け、馬車に乗り込む。
離宮と言っても、王都から一時間ほどしか離れていない。ほんの少し高原にある別荘地の一角にあった。
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