お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「これはイートン伯爵。ようこそいらっしゃいました」
「ご苦労さん」
イートン伯爵は顔パスで通れるらしい。
「離宮の警備はうちで雇っている人間なんだ。一応後見人だからね。細々したところを支援している」
「国王様は出してくださらないんですか?」
意外な気がして問いかけると、苦笑された。
「まあいろいろ難しくてね」
離宮は庭が広く、門をくぐってからが長かった。庭師も頻繁には入っていないのか、木々はうっそうと生い茂り、人の進入を拒んでいるような印象さえある。
出迎えてくれたのは、年配の侍女だ。イートン伯爵いわく、この屋敷にはあまり男性はいないらしい。
今は遠のいたとはいえ、元は国王の寵姫だ。誤解を避ける意味でも、なるべく女性だけで過ごさせているらしい。
イートン伯爵も、後見人という立場ではあるが、来るときは必ず妻か娘を伴って来ているのだそうだ。
「ようこそいらっしゃいました。イートン伯爵」
「今日は秘蔵っ子を連れてきましたよ。カイラ様のご加減は?」
「相変わらずでございますね。どうぞお庭へ。お茶の準備をいたします」
侍女の顔が少し陰る。ロザリーはドキドキしながら、イートン伯爵の後について行った。
ちらりとケネスを見ると、相変わらず悠々とした様子でほほ笑んでいる。その心臓の強さが羨ましい。
「こちらでお待ちください」
侍女はそう言うと、テラスに設けられた茶席に三人を残し、戻っていく。