お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
不思議と、テラスから見える部分にだけは、手入れが行き届いていた。
薔薇を中心として季節の花が咲いている。今は冬のはじめで、花が少ない時期であるにもかかわらず、だ。
「素敵なお庭ですねぇ」
「カイラ殿は花が好きだからね。彼女が離宮に移ってすぐだったかな。常に花が咲くように国王様の指示で植えられたんだ。冬に咲く花もいくつか植えられていたはずだ。まあ、花よりも雪の方が綺麗だったりするけれどね」
何気なく語られるイートン伯爵の話には、かつての寵愛ぶりが伝わってくるようなものもある。
考えてみれば、侍女から見初められるというのは滅多にないことだ。どんなふうに心を通わせていったのかは知らないけれど、相当に愛されていたんだろう。
何のボタンの掛け違いで、こんな風になってしまったのか。
「……綺麗ですね」
赤い花、白い花。ロザリーには名前も分からないが、こうして咲いている花はまるで、かつての蜜月を忘れないでというような願いにも見えて切なくなる。
「ご無沙汰しておりますわ。伯爵」
ぼそりと小さな声がして、振り向くとそこには異国の女性がいた。
黒い髪に黒い瞳、肌の色は褐色とまではいかないが、白というよりは黄色がかっている。
美しい女性だ。この国の女性がよく着る、裾の広がったドレスではなく、体のラインを強調するような細身のドレスを着ていた。ふわり、香ってくる白檀で、この女性がザックの母親だとロザリーにはわかった。