お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「やあ、お久しぶりです。カイラ様。今日はうちで預かった令嬢を紹介しようと思いましてね。先日社交界デビューをさせたルイス男爵令嬢・ロザリンド嬢です」
「初めまして、カイラ様。お初にお目にかかります。ロザリンドと申します」
ぺこりと頭を下げる。と、カイラ様の手が震えているのが見えた。気になってちらりと上を向くと、カイラは呼吸を整えて必死に笑顔を作っている。
「……カイラです。よろしくね。ロザリンドさん」
高飛車な態度は少しもない。むしろ、頭を下げられることに恐縮している。
ロザリーの胸に不思議な感覚が沸き上がってきた。
この人は本当に、生粋の平民なのだ。田舎育ちのロザリーがそう思うくらいに。
よく言えば身分を奢らない謙虚な女性だが、悪く言えば、気弱で気品が無い。
少なくとも王妃という立場にずっと立っていられるような女性ではないのだ。
もしかしたら心を病んだのは、それが一番の原因なのかもしれない。
「このお屋敷、お花がたくさん咲いていて素敵ですね。私、イートン伯爵領よりさらに南西の田舎町に住んでいたんです。王都はにぎやかで楽しいですが、このくらい静かなほうが落ち着きます」
「……本当にそう思う?」
カイラの顔が一瞬ほころぶ。
「はい! このお花、なんて言うんですか? 私、お花好きなのに、名前をあんまり知らないんです」
「まあ、これは有名よ。冬咲きのクレマチス。白くて寒々しいと言われるけれど、私は好きな花だわ」
「そうなんですね。可愛いです!」
うつむくように咲く、可憐なクレマチス。
それは、カイラのイメージと合っているようにロザリーには思えた。