お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
イートン伯爵はおもむろに手を広げ、笑顔を向ける。まるで何も隠し持ってなどいませんよと証明するように。
黙って見ていたケネスもそれに習ったので、ロザリーは不思議に思う。

「このロザリー嬢を行儀見習いとしてしばらくここに置いてほしいのです」

「この子を?」

カイラは一瞬、警戒するようにあたりを見回した。そして急に怯えたように体を自分で抱え込む。

「なにか……企んでらっしゃるの? 私はここでようやく安息を手に入れたのよ? もう政治には関わりたくないわ」

「落ち着いてください。カイラ様。……今のところはなにもありませんよ。ただ、未来永劫変わらないとは言えません。そのために、できることを今からしたいと言っているんです」

「……どういうこと?」

「この子は、鼻の利く子です。あなたの役に立つと思います」

「鼻?」

カイラは警戒を緩め、ロザリーを見つめる。ロザリーは安心させるつもりで、彼女から嗅ぎ取った匂いを指摘した。

「カイラ様からは白檀の香りがします。香木をお持ちではないですか?」

カイラは慌てて胸元を押さえる。そこに香木があるのだろう。行動も素直で分かりやすい。

「すごいわ。……どうして?」

「分かりません。ある日突然嗅ぎ分けができるようになったんです。でもだからこそ、お役に立てることもあると思うんです」
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