お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「あの……もしよかったら、お嬢さんをご案内しても?」
ロザリーはしゃがみこみ、クリスの手を取った。
クリスは先日のことを気にしているのか戸惑ったまま、オードリーを見上げている。
「……お願いできるかしら、私はしばらくご挨拶して回るから」
「はい! クリスさん、私のことはロザリーと呼んでください」
「ロザリーちゃ……さん」
「はい」
笑顔で答えると、クリスは少し逡巡したようだったが、ロザリーとつないだ手に力を込めた。
ロザリーはそれが泣きたいほど嬉しかった。ずっと、不安にさせてしまったことを謝りたかったのだ。
思わず両手で、その小さな手をギュッと抱きしめる。
「じゃあ、私達は探検に行ってきますね!」
元気にそう言い、ケネスとも一度別れる。
イートン伯爵家の夜会は、音楽は流れているが舞踏会ではない。基本は情報交換を目的としたもので、料理は立食形式だ。人々は出てくる料理を自ら皿にとり、そのおいしさに舌鼓を打ちながら歓談している。
ザックは今は人と話しているばかりでほとんど食べていない。元々、先に安全な食事をさせてある程度お腹は膨らませているらしいので、しばらくは安全そうだ。
ロザリーはクリスに食べ物を取ってあげ、部屋の端まで寄った。
「この間はごめんなさい。クリスさん。会えてよかったです」
小声でそう囁くと、クリスは心底ほっとしたようだ。
「ロザリーちゃん、ママが」
「分かってます。私達、オードリーさんとクリスさんをレイモンドさんに会わせてあげたくて。それでこの夜会を開いたんですよ」