お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「レイもいるの?」
クリスはクルミのような大きな丸い瞳で見上げてくる。
「今日のお料理、レイモンドさんが作ってるんですよ。おいしいから、いっぱい食べてください」
クリスはまじまじと料理を見て、一気に食べ始めた。そんなに勢いよく食べたら、むせてしまいそうなほど。
「おいしい! レイの料理、とってもおいしいよ」
「ですよね。私も久しぶりなのですっごく嬉しいです」
久しぶりのクリスの笑顔に、ロザリーも心底ほっとした。
ひとしきり食べ終わると、クリスはロザリーの手をキュッと握った。小さな手は、なにか強い決意を秘めたように力がこもっている。
「ロザリーちゃん、クリス、レイに会いたい」
「クリスさん。……でも」
「レイに会いたいの。ママが泣いてるって伝えたら、レイは絶対助けてくれる」
子供の目は正直だ。きっとクリスには、母親に何の利害の計算もせずに愛情を向けてくれるのがレイモンドだと分かっているのだ。
だが今、厨房は戦場のはずだ。連れて行ってもちゃんと会わせられるかは分からない。
そう説明しようかとも思ったが、ギュッと両手を握り込んで深刻な顔をしている少女に、頭で理解しろとは言えなかった。
「……うん。行ってみましょう。でも厨房は今慌ただしいのでお話はできないかもしれません。それでもいいですか?」
「行く。レイの顔が見たいの」
ロザリーとクリスは給仕にお皿を返すと、手を繋いで広間を出た。
ケネスかザックかに不在にすることを伝えたほうがいいかとも思ったが、ふたりとも、それぞれ招待客と話し込んでいてなかなか視線が合わない。
ザックの隣にいたクロエと目があったので、軽く手を振って、抜けることを伝えてから部屋を出た。