お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
いつまでたっても輝安鉱の採掘と鋳造から抜け出せないことに、サイラスは疲れてきていた。
局長である今、贅沢さえしなければ生活に困っているわけではない。
(……こいつさえ、いなくなれば)
疲れ果てたサイラスは、ついにその一年後、事故に見せかけてジェイコブを殺害した。
こうして、ジェイコブは死に、サイラスは自由になったかに思えた。
アンスバッハ侯爵が、造幣局を訪れるまでは。
『こちらで製造している硬貨に不審な点が見られる。調査に入らせてもらおう』
専門家でもない侯爵にバレるわけがないと思っていたが、彼は研究部屋の一角に置かれた輝安鉱を見て、口端を曲げた。
『ジェイコブ・オルコット教授を知っているだろう? 君のせいかな? 彼はいないとこちらはいろいろ困るのに』
サイラスはピンときた。
ジェイコブの採掘を支えていたのは、国王に次ぐ権力をもつこの侯爵だったのだ。
『……彼の代わりなら、私にもできます』
『そうか。では今後懇意にさせてもらう。だが君とは議会でも顔を合わせる。その時は無関心を装うことにしよう』
結局サイラスがしたことは、何にもならなかった。
搾り取られる相手が、ジェイコブから侯爵に変わっただけ。しかも、採掘までも自分の手にかかってくるようになってしまった。